こんにちは、ミラザ新宿つるかめクリニック婦人科の佐野です。私は産婦人科専門医、女性医学会専門医であり女性のヘルスケアやピル・ホルモン治療を専門としています。低用量ピルには保険適応・自費のいずれにも複数の種類があり、その違いは非常にわかりにくくなっています。そこで前回と前々回のブログではピルの違いの中でもエストロゲン量の違い(コチラから)・一相性か段階型か(コチラから)について説明しました。今回は個々の低用量ピルの違いの中でも黄体ホルモンの違いと投与方法について説明します。
ピルにはエストロゲンと黄体ホルモンの2種類の女性ホルモンが含まれています。この中でも現在日本で発売されている低用量ピルのエストロゲンはすべてエチニルエストラジオールで1種類のみです(現在エステトロールを含む新薬が2024年12月に発売準備中)。それに対し黄体ホルモンは4種類ほどあります。この黄体ホルモンの違いは製品を特徴付ける違いの一つで、使い分けにも影響します。そこで個々の黄体ホルモンの違いをみていきましょう。
まず黄体ホルモンは開発された順に第1世代より第4世代までに分けられます。そして各世代の違いを特徴付けるのが、プロゲステロン活性とアンドロゲン活性です。プロゲステロン活性とは黄体ホルモンのメインの働きである卵胞発育を抑制したり子宮の内膜に働きかけたりする作用がどのくらいあるかの指標です。また黄体ホルモンにも男性ホルモン作用を持つものがあり、この男性ホルモン作用の指標になるのがアンドロゲン活性です。通常この活性は第1世代のノルエチステロン(NET)がもつ両者の活性をそれぞれ1として比較します。
第2世代のレボノルゲストレル(LNG)ではプロゲステロン活性が5.3と第1世代より強くなりました。それに伴い、アンドロゲン活性も8.3と強くなっています(*ただしこれはあくまで活性の比較であり、実際の製剤ではこれを加味して含有量が調節されています。そこで実際に含まれているホルモンが5.3倍、8.3倍というわけではありません。)第3世代のデソゲストレル(DSG)になるとプロゲステロン活性は9とさらに高くなりますが、アンドロゲン活性は3.4程度とプロゲステロン活性の1/3程度になりました。この結果第3世代では従来のピルよりもアンドロゲン活性が相対的に低くなりました。また第4世代のドロスピレノン(DRSP)が登場すると、アンドロゲン活性は0になりました。このように第3世代の登場以降、低用量ピルのアンドロゲン活性は低く抑えられようになり、第4世代ではその活性がなくなりました。次に、黄体ホルモンの種類とそれを用いている製品(本邦で発売中のもの)を下の表にまとめてみます。
まず表の一番右側に注目して下さい。日本で最初に使用されるようになったピルは自費のピルですが、それぞれの製品には第1世代から第3世代までの黄体ホルモン製剤が含まれています。この中でもシンフェーズ、アンジュ、トリキュラーは第1-2世代の黄体ホルモンを含んでおり、その総量をおさえるために段階型のピルとなっています。しかし第3世代の黄体ホルモンが登場し、ピルに含まれる黄体ホルモンのアンドロゲン活性が低くなると、1相性のピルのマーベロンが登場しました。
次に表の真ん中の行に注目して下さい。日本で最初に発売された保険のピルはルナベル配合錠ですが、これは第1世代の黄体ホルモンを使用しています。元々ルナベル配合錠が登場する以前に、同じ成分を同じ量含んだオーソM-21という自費のピルが発売されていました(現在は発売中止)。2008年にオーソM-21と同じ成分のルナベル配合錠が月経困難症の治療のために開発され、保険診療で使用できるようになりました。2010年には第4世代の黄体ホルモンを含むヤーズ配合錠が発売され、2017年にヤーズフレックス配合錠も登場しました。
ジェミーナ配合錠は第2世代の黄体ホルモン製剤を使用した製品ですが、この中では一番新しく2018年に発売されました。これにより月経困難症の治療目的で第2世代のLNGを含んだピルが使えるようになりました。ジェミーナ配合錠は同じLNGを含むアンジュやトリキュラーとは異なり一相性のピルになっています。しかし含まれるエストロゲンの量も少ないこともあり、黄体ホルモンの量は段階型のピルと同程度に抑えられています。
先程までは「黄体ホルモンの開発が進み、世代を追うごとにアンドロゲン作用が相対的に低くなっていった」と説明しました。特にニキビや多毛などアンドロゲン優位の症状がある場合はアンドロゲン作用が少ない第3-4世代のピルを選ぶといいでしょう。では第3・4世代の黄体ホルモンが登場している今でも第1・2世代の黄体ホルモンを含むピルを用いるメリットがあるのかと疑問になりますよね。ところがメリットもあるのです。
本来女性にもアンドロゲンは存在しています。普段は卵巣の細胞からアンドロゲンが分泌され、それをもとにエストロゲンが作られています。アンドロゲンは活力やリビドーに関わっており、元気ややる気の源になることもあります。そこで全くアンドロゲン作用がない第4世代のピルを使うよりも、第1・2世代のピルを使用する方が「調子がいい」という事もあるようです。例えば第1世代のピルを第4世代に変更すると、患者さんから「元気がなくなったり、そわそわしたりする」と言われることもあります。その場合は第1世代に戻すと改善することがあります。
最後におなじみの表の一番右側にある④の投与方法についてふれておきましょう。低用量ピルの元々の飲み方は21-24日間実薬を内服したあと4-7日間休薬もしくは偽薬を内服し、1ヶ月に一度は出血を起こすことが一般的でした。これを一般的に周期投与といいます。しかし2017年にはヤーズフレックスが登場し、最大120日間まで薬を連続して内服できるようになりました。また2018年に登場したジェミーナ配合錠も77日間まで内服することができます。これらを連続投与といいます。連続投与の仕組みとメリットについては以前違うブログでも説明しましたので詳細はコチラをご覧下さい。
ここまで低用量ピルの違いについて3回に渡りブログで解説してみました。また2024年12月には新しいエストロゲン製剤(エステトロール)を使用した新しい製品も発売準備中であり、今後低用量ピルの選択肢はますます増える事になりそうです。
ただ普段診療をしていると感じることもあります。それはシンプルに「最初にのみ始めたピルが、一番好き」である人が多いということです。患者さんに他のピルも試してみたいという希望があったり、内服中のトラブルがあったりして、ピルの変更をすることは時々あります。ただ紆余曲折を経て、元のピルに戻っていく人が割と多いのです(あくまで私見になります)。始めて飲んだ時の感覚がその方の中の基準になるのかもしれませんね。こればっかりは製品の特徴や黄体ホルモンの種類などを心得ていても、なかなか説明できないことではあります。
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参考文献
菅陸雄.低用量経口避妊薬 進化して来たピル,37年の歩み.ファルマシア.1997,vol33,No10,
P1113-1115
リプロヘルス情報センター.“ピル50年史”.m3.com学会研究会.
http://rhic.kenkyuukai.jp/special/index.asp?id=4368(参照2024-08-29)
公益社団法人日本産婦人科医会.研修ノート(No.88)ホルモン療法のすべて.平成23年,P2-9
八田真理子.第1、第2、第4世代のLEP製剤の使い分け.The Newsletter of The Japan Society for Menopause and Women’s Health.2019, Vol.24,No.2 ,P14-15