こんにちは、ミラザ新宿つるかめクリニック婦人科の佐野です。私は産婦人科専門医、女性医学会専門医であり女性のヘルスケアやピル・ホルモン治療を専門としています。低用量ピルは現在、避妊だけでなく月経困難症や子宮内膜症などの治療に用いられており、婦人科の治療においても重要な薬です。ただし低用量ピルには自費のものと保険適用のものがあり、さらにその中にも幾つかの種類があります。「何が違うのか」というのは混乱しますよね。そこで今回は低用量ピルの種類や使い分けについて説明できればと思います。
まずみなさんはOC・LEPという言葉を聞いたことがあるでしょうか。どちらも低用量ピルのことを指す言葉です。低用量ピルには排卵を抑制する作用があり、60年ほど前に避妊薬としてアメリカで誕生しました。その後低用量ピルには生理痛を軽減する効果もあることもわかり、生理痛の治療にも使用されるようになりました。2008年には日本でも保険適応で使える低用量ピルが発売されました。そこで両者の混同を避けるため避妊や月経周期のコントロールを目的に使用する自費の低用量ピルはoral conceptive(OC)、月経困難症に使用する保険の低用量ピルはLow dose estrogen-progestin(LEP)と区別して呼んでいます。
では個々の低用量ピルの違いは何でしょうか。違いは大きく4つあり、大まかに述べると①エストロゲン量 ②一相性か段階型か ③黄体ホルモンの種類 ④投与方法です。そこで現在本邦で発売されているOC/LEPを①~④の特徴に分けて表にしてみました。
この表を突然みても「何が何だか??」ですよね。そこでここからは①~④の違いについて解説してきます。読み終わってから表に戻って頂くと少しわかるようになっていると思います。
まず①のエストロゲン量についてです。ピルにはエストロゲンと黄体ホルモンの2種類のホルモンが含まれています。この中でもエストロゲンの量が多いと血栓症のリスクが高まることがわかり、1錠の中のエストロゲン量を50μg未満に抑えることが推奨されました。そこで1錠に含まれるエストロゲン量を50μg未満に抑えたピルが開発され、低用量ピルと呼ばれるようになりました。現在日本で使用される自費の低用量ピル(OC)には1錠あたり30-40μgのエストロゲン(EE:エチニルエストラジオール)が含まれています。一方保険で使用されるピル(LEP)の1錠あたりのEE量は20-35μgです。OCとLEPのEE量にはやや差がありますが、これは本邦での低用量ピルの保険適用と開発の経緯が関係しています。
月経困難症に保険で使用する低用量ピル(LEP)は2008年に本邦で初めて承認されました。この時発売されたルナベル配合錠には1錠あたり35μgのEEが含まれています。その後嘔気や血栓症リスクなどの副作用を減らすため、さらなる低用量化がのぞまれました。結果として2010年には1錠あたりのEE量を20μgまで減らしたヤーズ配合錠が承認されました。その後2013年にはルナベル配合錠ULD(後発薬フリウェルULD)、2018年にはジェミーナ配合錠が登場しました。これら1錠あたりのEE量が20μgのピルは「超低用量ピル」と呼ばれます。超低用量ピルは登場以降、従来の低用量ピルと置き換わっており、現在はこれらの超低用量ピルが月経困難症に使用されるピルのスタンダードになっています。ただし超低用量ピルにも欠点はあります。エストロゲン量が低すぎるために、膜が安定しにくくシートの途中で不正出血が起こってしまうことがあります。この場合は超低用量ピルから低用量ピルに変更し、用量をあげることで不正出血を減らすことができます。
以上をまとめると日本で使える低用量ピルには自費のものと保険適応のものがある。自費のピルの1錠あたりのEE量は30-40μgである。それに対し保険適応のピルにはその開発の経緯より、1錠あたりのEE量を20μに抑えた超低用量ピルも含まれるということになります。長くなりましたので②一相性か段階型か以降に関してはまた次のブログに続きます。
参考文献
菅陸雄.低用量経口避妊薬 進化して来たピル,37年の歩み.ファルマシア.1997,vol33,No10,
P1113-1115
リプロヘルス情報センター.“ピル50年史”.m3.com学会研究会.
http://rhic.kenkyuukai.jp/special/index.asp?id=4368(参照2024-08-29)
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