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HRTで使用できる天然型の女性ホルモン製剤について

 こんにちは、ミラザ新宿つるかめクリニック婦人科の佐野です。私は産婦人科専門医・女性医学会専門医・抗加齢医学会専門医であり女性のヘルスケアやピル・ホルモン治療を専門としています。HRT(ホルモン補充療法)では女性ホルモンの欠乏症状に対しエストロゲン製剤を使用し、その副作用の子宮内膜増殖症や子宮体癌を予防するために黄体ホルモン製剤を用います。以前のブログではHRTに使用できるようになった天然型の黄体ホルモン製剤「エフメノ®カプセル」について説明しました(以前の記事はコチラから)。今回は女性ホルモンの欠乏症状に用いるエストロゲン製剤について説明します。

 

 まずエストロゲン製剤は天然型エストロゲンと合成エストロゲンの2つに分かれます。現在保険適応でのHRTに用いられるエストロゲンはすべて天然型のエストロゲン製剤です。そして天然型エストロゲンはさらに妊馬の尿から抽出された①結合型エストロゲン製剤(CEE)と女性の卵巣で作られるホルモンと同じ構造を持つ②17βエストラジオール製剤(E2)、③エストリオール製剤(E3)の3種類に分けられます。

 

 一方合成エストロゲン製剤には低用量ピルに含まれるエチニルエストラジオール(EE2)などがあります。「どうして天然型のエストロゲン製剤があるのにピルには合成エストロゲンが使われているの?」と思われる方もいるかもしれません。その理由はエストロゲンの強さにあります。合成エストロゲン製剤であるEE2はその構造によって体内で酸化・代謝されにくく、高いエストロゲン活性を発揮します。ピルは卵巣機能が保たれている女性の内因性のホルモンを抑え、排卵を抑制することで避妊効果や月経困難症の改善効果を発揮します。このためにはある程度のエストロゲン活性が必要であり、EE2が適任というわけです。この点では天然型エストロゲンでは低用量ピルの目的を達成するには役不足の可能性があるし、逆にEE2はHRTに使うには強すぎるとも言えます。


 では次にHRTに使用される天然型エストロゲン製剤の詳細について触れていきましょう。まず、妊馬尿から抽出された①の結合型エストロゲン製剤(CEE)です。CEEはプレマリン®という商品名の飲み薬で、昔から婦人科診療では広く使用されています。更年期障害の他にも、若年者の月経不順の治療等にも用いられます。メリットとしてはHRTの治療にメドロキシプロゲステロン酢酸エステルと一緒に用いると、LDLコレステロールを減少させ、善玉コレステロールであるHDLコレステロールを上昇させることが報告されています。ただしデメリットとして肝臓を通る際に中性脂肪を上昇させることがあります。また血管内の炎症性マーカーを上昇させることもあり、そのために血管の壁にできたコレステロールのプラークを不安定にさせる可能性があります。ただし通常量(0.625mg)の半分(0.317mg)で用いればこれらのデメリットは現れず、更年期症状改善や骨量上昇の効果も得られることが報告されています。

 

 現在HRTのエストロゲン製剤として一番広く用いられているは②の17βエストラジオール製剤(E2)です。17βエストラジオール(E2)はヒトの卵巣で作られるエストロゲンと同じ構造を持つ天然型のエストロゲンで、飲み薬の他にも経皮剤としてパッチやジェルも使用できます。E2製剤はCEEとは異なり、飲み薬にも経皮剤にも中性脂肪を増加させる作用はありません。またE2製剤の飲み薬はCEEと同様に通常量でLDLコレステロールを優位に低下させることが報告されています。またE2製剤をパッチやジェルの経皮投与で用いると血管炎症に対し抑制的に作用し、プラークを安定化させる可能性があると報告されています。他にもE2経皮製剤には動脈硬化を起こしにくい大型のLDLコレステロールを産生する作用や、抗酸化作用もあり、脂質代謝にいい影響を与えることがわかっています。そこで今では高脂血症があるなどのリスクがある場合はE2経皮剤でのHRTをすすめることが多いです(HRTと脂質異常症についてはコチラから)。



 最後に③のエストリオール製剤(E3)についてです。E3は妊娠時に胎盤で産生・分泌されるエストロゲンです。E3は他のエストロゲン製剤に比べるとホルモン活性が低いことが知られています。またエストロゲンの受容体にはαとβの2つの受容体があり、子宮や乳腺にはエストロゲンαが発現しています。E2はαおよびβ受容体に同程度に作用・刺激するのに対し、E3はα受容体よりもβ受容体を好んで刺激します。そこで一般的には乳腺や子宮への刺激作用は少ないと考えられています。E3製剤がよく用いられるのは萎縮性炎などの閉経後性器尿路症候群の場合で、錠として用いられることがほとんどです。飲み薬の製剤もあり、更年期障害の適応で使用することもできます。ただ子宮への刺激は弱いと考えられているものの、飲み薬を長期に使用する場合は黄体ホルモンの併用がすすめられています。一方E3錠は黄体ホルモンの併用は不要であり、局所投与という使いやすさもあって萎縮性炎の治療によく用いられます(詳細はコチラのブログから)。

 

 保険適応のHRTでは以前より上記の様な天然型のエストロゲン製剤が使用されてきました。天然型の黄体ホルモンであるエフメノの登場によって保険適応でも天然型のホルモン製剤の組み合わせによるHRTが可能となっています。ただ天然型のホルモン剤は合成ホルモン剤よりも自然に近いとはいえるものの、副作用がない・リスクがないというのとは異なりますので注意が必要です。

 
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参考文献

日本産科婦人科学会・日本女性医学学会:ホルモン補充療法ガイドライン 2017年度版

水沼英樹,基礎から学ぶ女性医学,診断と治療社,2020,P74-78

 

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