2025年10月10日
婦人科 佐野 靖子
こんにちは、ミラザ新宿つるかめクリニック婦人科の佐野です。私は産婦人科専門医・女性医学会(旧更年期学会)専門医・抗加齢医学会専門医であり、女性のヘルスケアやピル・ホルモン治療を専門としています。本日は2025年6月30日に発売されたスリンダ®錠28について説明します。
一般的な低用量ピルにはエストロゲンとプロゲスチンの2種類の女性ホルモンが含まれています。この低用量ピルには血栓症の副作用があり、年齢や喫煙・肥満などの血栓症リスクが高い方には使えない事もありました。低用量ピルで血栓症のリスクが上がる原因はまだ完全にはわかっていないものの、主にエストロゲンが関わっているのではないかと考えられています。エストロゲンを含まないプロゲスチン単剤のピルは従来の低用量ピルよりも血栓症リスクが少ないとされ、日本でも発売が待望されてきました。そこで「プロゲスチン単剤の経口避妊薬」として発売されたのがスリンダ®錠28です。プロゲスチン単剤のピル(Progestin-only pill:POP)は従来の低用量ピル(Combined Oral conceptives:COC)に対し、ミニピルともよく呼ばれています。

今回発売されたスリンダ®錠28にはドロスピレノンという第4世代の黄体ホルモンが含まれています。黄体ホルモンには排卵を抑制する作用があります。また子宮の内膜の肥厚を抑え受精卵の着床を防ぐ効果や頚管粘液を粘稠にして精子の侵入を防ぐ効果もあります。低用量ピルに含まれる黄体ホルモンの種類と世代については以前のブログ(低用量ピルの種類と使い分けについて ③黄体ホルモンの種類 ④投与方法)でも触れましたが、ドロスピレノンは男性ホルモンであるアンドロゲン活性がなく、むしろ抗アンドロゲン作用をもちます1)。ニキビや多毛などの男性化徴候が気になる場合には効果的と考えられます。またドロスピレノンは腎臓からナトリウムと水分を吸収する作用を持つホルモン(ミネラルコルチコイド)に拮抗する作用もあります1)。そこで黄体ホルモンの中では比較的むくみが出にくいと考えられます。ドロスピレノンは元々ヤーズ®配合錠(後発薬はドロエチ®配合錠)に含まれており、ヤーズ1錠中にはドロスピレノン3mgとエチニルエストラジオールが20μg含まれています。一方スリンダ®錠28はドロスピレノンのみを含み、その用量はヤーズ®配合錠よりも高くはなりますが、1錠中に4mgです。
スリンダ®錠28の1シートの中には24粒の実薬と4粒の偽薬(成分を含まない錠剤)が含まれており、28日周期で内服をします。初めて内服する場合は月経初日より開始します。他のピルから切り替える場合は前のピルの有効成分を含む錠剤を全て飲んだ翌日より開始します。つまり休薬があるピルの場合は休薬をおかずに、実薬の後に偽薬が数日あるピルの場合には偽薬を飲まずに、スリンダ®錠28切り替えます。ここは今までの低用量ピルとは異なり、注意が必要です。

スリンダ®錠28のシートでは24日間実薬を飲んだ後、4日間は成分が含まれていない偽薬を内服します。この偽薬を飲むタイミングで体内の黄体ホルモンは減少します。ホルモンが減少すると子宮内膜が剥がれ、出血が起こります。理想的には偽薬を飲んでいる最中に出血がおき、これが予定された出血です。しかし黄体ホルモン単剤では子宮内膜を安定させる力は弱いため、偽薬を飲む前の実薬を飲んでいる間に予定外の出血(不正出血)が起きやすくなります。また予定外の出血が多く子宮内膜が安定しないために、偽薬を飲んでも予定された出血が起こらないことがあります。
投与1-13周期を観察した臨床試験では周期によっては半数以上の方に実薬内服中の予定外の出血が起こっています。また偽薬の内服中に始まり8日以内に止まった出血(予定された出血)があった方の割合は、周期によって差はあるものの約36-69%程度でした2)。このようにスリンダ®錠28内服中は頻繁に予定された出血がスキップする可能性があります。そこで2周期連続して予定された出血がなかった時は医師に相談し、妊娠の有無を確認しましょう。当院でもスリンダ®錠28の扱いはあり、自費価格で1シート税込み3,300円です。
婦人科はコチラから
文献:
1) 水沼英樹:基礎から学ぶ女性医学.診断と治療社,2020,P77-78
2) あすか製薬株式会社.“患者向医薬品ガイド・患者向け情報 2025年6月 経口避妊剤スリンダ錠28を服用される方へ“ あすか製薬株式会社.2025年5月作成
公開日:2025年10月10日
