2026年7月23日
婦人科 佐野 靖子
こんにちは、ミラザ新宿つるかめクリニック婦人科の佐野です。私は産婦人科専門医・女性医学会(旧更年期学会)専門医・抗加齢医学会専門医であり、女性のヘルスケアやピル・ホルモン治療を専門としています。2026年4月24日に最新の診療ガイドラインである「産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2026」が発売され、新しく帝王切開子宮瘢痕症についての項目が追加されました。そこで今日は帝王切開子宮瘢痕症について説明します。
帝王切開で出産したのち、月経後に少量の出血が続く・月経痛や下腹痛がある・妊娠しづらいなどの症状を呈する病態があることは以前より知られていました。この病態に対して2023年にCesarean scar disorder(CSDi)という用語を用いることが国際的に提唱されました。帝王切開子宮瘢痕症はこのCSDiの和訳に当たります1)。「瘢痕」はわかりやすく言うと「傷あと」のことで、ここでは帝王切開で子宮を切開したあとに生じた傷あとを指します。
ではなぜ帝王切開の後にCSDiの症状が出現するのでしょうか。帝王切開ではお母さんのお腹の側の子宮の壁を切開して、赤ちゃんを娩出させます。切開創を閉じる時にはしっかり創がつくように縫合します。しかし術後に切開した部分にくぼみができてしまうことがあります。原因ははっきりとはわかっていませんが創傷治癒の過程で、炎症などの治癒を妨げる要因が生じるのではないかと考えられています。通常このくぼみは子宮の内側にできます。

ではこのくぼみがあるとどうなるでしょうか。CSDiではこのくぼみの部分に血液が溜まります。溜まった血液は排出されにくいため月経後に少量の出血が継続し、異常子宮出血の原因となります。溜まった血液が子宮内腔に逆流すると受精卵が着床する際に障害となり、不妊症の原因となります。またくぼみの瘢痕部には慢性的な炎症も起こる事が知られており、不妊症や月経痛・骨盤痛の原因になります。くぼみに溜まった血液は従来月経血であると考えられてきましたが、瘢痕部そのものからの出血であることも報告されています2)。

CSDiを疑う場合は婦人科のエコー(経腟超音波検査)でくぼみの確認(深さ2mm以上)をします。エコーは月経後から排卵までの血液が溜まりやすい時期に行います。月経から時間が経つと溜まりが減って、所見がとれない事もありますので注意が必要です。診断はエコーでのくぼみの確認と関連する症状を併せて行います。また他に不正出血の原因となる病気がないかを除外することも必要です。
CSDiの治療には対症療法、ホルモン療法、手術療法があります。ただしCSDiと診断されてもすべての方に治療が必要なわけではありません1),3)。症状の原因としてCSDiについて説明をすると、原因がわかってよかったと安心され、積極的には治療を希望されない方もいます。月経痛に対しては鎮痛剤を使用する事もできます。積極的な治療を行う場合、妊娠を希望するかどうかで方針は変わります。
妊娠を望まない場合、低用量ピルやジェノゲスト、ミレーナなどのホルモン治療が有効とされています。これらの治療は子宮内膜の増殖を抑制し、経血量を抑えるとともに、不正出血を改善させます。妊娠を望む場合は不妊治療や手術などの選択肢があります。手術には腟を通して子宮の中に細長いスコープを入れて創部を切除する子宮鏡手術とお腹に小さな穴を空けて腹腔内で瘢痕部を切除・修復する腹腔鏡手術があります。ただし現時点では不妊治療を先行するか手術を先行するかについてはあきらかなエビデンスはなく、個々の状況に応じ、メリットやデメリットを考慮しながら判断していくことになります3)。
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文献
1)日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会:産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2026.P181-183,
2)谷村 悟.新たな診断基準,帝王切開瘢痕症.日本産科婦人科学会雑誌Acta Obst Gynaec JPN.2025,Vol.77,No3,pp413-419
3)辻俊一郎.帝王切開子宮瘢痕症の治療.日本産科婦人科学会雑誌Acta Obst Gynaec JPN.2025,Vol.77,No3,pp420-424
公開日:2026年7月23日
