ミラザ新宿つるかめクリニック婦人科の佐野です。私は産婦人科専門医・女性医学会（旧更年期学会）専門医・抗加齢医学会専門医であり、女性のヘルスケアやピル・ホルモン治療を専門としています。最近では更年期障害のため婦人科に受診される方が増えています。そこで今回は更年期と更年期障害、その治療法について綴ります。

　更年期は閉経前後のそれぞれ5年間を指します。日本人女性の閉経の平均年齢は50歳なので、一般的には45歳～55歳が更年期に当たります。ただ更年期の時期になるとすぐに症状が出るわけではありません。最初のうちは卵巣機能の低下に伴い、月経周期が様々に変化します。その後閉経のおよそ1～3年前より月経の間隔がのび、女性ホルモンも徐々に下がり始めます。この辺りから更年期障害の症状が出現することが多くなります。

　更年期障害とは更年期に現れる多種多様な症状で、器質的変化に起因しないもの、かつ日常生活に支障をきたすものとされます。のぼせ・ほてり・多汗などの症状が一般的に知られていますが、それ以外にも様々な症状が更年期障害として扱われます。ただし症状を来す他の病気がないことが重要で、否定した上での除外診断となります。例えばのぼせやほてりは甲状腺の病気が原因である事もあります。まためまいも更年期にはよくある症状ですが、メニエール病などの耳鼻科の病気が隠れている事があります。

　では更年期に備えるにはどうしたらいいでしょうか。まずは食生活の見直しと運動です。更年期以降は女性ホルモンの低下により、高脂血症や骨粗鬆症になりやすくなります。そこで過剰なカロリーやコレステロールの摂取を控え、食物繊維やカルシウムの摂取を心がけましょう。また運動習慣がある女性は更年期の症状が軽く、運動は高脂血症や動脈硬化・骨粗鬆症の予防にもなります^1）。更年期以降の健康維持のためにもこれらの生活習慣を見直すとよいでしょう。

　それでも更年期につらい症状が出てきてしまったら、婦人科ではホルモン補充療法（Hormone Replacement Therapy ; HRT）や漢方治療を受けることができます。HRTはホットフラッシュや睡眠障害・抑うつ症状・関節痛・ふしぶしの痛み（四肢痛）に効果があります。HRTには骨密度を増加させ、骨折を予防する効果もあります。また、コレステロールや血糖の代謝にもいい影響を与えます。ホルモン剤と聞くと乳癌のリスクを心配される方もおられるでしょう。確かにHRTは乳癌のリスクを少し上昇させますが、そのリスク上昇はアルコール摂取や肥満・喫煙といった生活習慣によるリスク上昇と同じくらいかそれ以下で、乳癌リスクに及ぼすHRTの影響は小さいとされています^2）。ただし乳癌にかかる人の割合は40歳台後半から50歳台でピークを迎えており、更年期障害を発症する期間とも重なります。そこで40歳以上になったら乳癌検診を定期的に受けましょう。

　更年期の治療には漢方も使用されます。更年期の症状が出ているけれどもホルモン値はそこまで下がっていない場合やホルモン剤の使用に心配がある方、HRTができない方にはいい選択肢となります。HRTと併用することもあります。つるかめクリニックには新宿と小金井に漢方科もあり、婦人科での治療が難渋する場合は漢方専門医に相談させて頂くこともあります。

　最近は更年期症状が社会全体の経済に与える損失^3）や更年期の離職などにも脚光があたり、更年期障害に対する関心が高まっているように感じます。確かに診察をしていると、更年期に仕事のパフォーマンスの低下を強く感じる方は多いようです。治療によって症状が改善するとともに「会議の内容がスムーズに頭に入る」「新しい仕事や趣味に挑戦する」と言って下さる方も多く、やりがいを感じます。また治療のニーズは様々で積極的にHRTを希望する方もいれば、できればしたくない方もおられます。更年期障害の治療には一律の正解はなく、同じ患者さんでも取り巻く状況によって症状も変化します。日々の診療をしていると、患者さんとのコミュニケーションが大事ということを実感します。

文献
1） 髙松潔・小川真里子:女性更年期外来診療マニュアル.日本医事新報社,2020,P228-235
2） 日本女性医学学会:ホルモン補充療法ガイドライン2025年度版. 金原出版株式会社,2025,P52-53
3） 経済産業省 ヘルスケア産業課.“女性特有の健康課題による経済損失の試算と 健康経営の必要性について”経済産業省.2024-2
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/jyosei_keizaisonshitsu.pdf,(参照2025-4-10)