こんにちは、ミラザ新宿つるかめクリニック婦人科の佐野です。私は産婦人科専門医・女性医学(旧更年期学会)専門医・抗加齢医学会専門医であり、女性のヘルスケアやピル・ホルモン治療を専門としています。更年期の症状があり婦人科を受診すると、女性ホルモンの値を採血で確認することがあります。「更年期と思って婦人科にいってみたけれど女性ホルモンの値は保たれているみたい」などと聞いたことはないですか。そこで今日は更年期の女性ホルモンの値について説明します。
女性ホルモンにはエストロゲンと黄体ホルモンの2種類があり、エストロゲンにもいくつかの種類があります。更年期症状は卵胞より分泌されるエストラジオール(E2)という種類のエストロゲンの低下によって起こるので、ここで言及する女性ホルモンとはE2の事を指します。
性成熟期には、体の中のE2濃度は月経周期により大きく変動します。月経が来て新しい周期が始まるとE2濃度は排卵にかけて徐々に増加し、排卵期にピークを迎えます。ピーク後に一旦は下降するものの、排卵後には卵巣にできた黄体細胞より再度分泌されます。その後、妊娠が成立せず黄体が退縮すると下がり、図のような2峰性の曲線を描きます。
体の中のE2濃度はのぼせ・ほてりなどの血管運動症状には40pg/mL、腟上皮細胞には60pg/mLで作用するという報告があります。この40-60pg/mLの濃度は通常の月経サイクルでは月経から排卵までの卵胞期の前半ぐらいに相当します。そこでホルモン補充療法(HRT)の施行中にはこの程度の濃度を目指すことが多く、実際にHRTに使用されるE2製剤を投与した場合も、血中E2濃度は40-80pg/mL程度に上昇する(種類により差異あり)とされています1)。そこで採血でのE2濃度が40-80pg/mL以上ある場合、HRTで補充する程度にはE2分泌は保たれている可能性があります。しかしE2の値は閉経前後には大きく変動するため、結果の解釈には注意が必要です。
更年期になると卵巣の卵胞は減少します。そのため卵胞より分泌されるE2の分泌は低下します。E2が下がると末梢からのフィードバックが中枢に伝わり(図①)、卵胞刺激ホルモンの分泌(FSH)が亢進します(図②)。FSHの刺激を受けた卵巣はE2を分泌し、E2分泌は上昇します(図③)。ただ上昇するのも一時的で、また下がり(①に戻る)、再度フィードバックで上昇(図②-③)というサイクルを繰り返します。
そこでE2が保たれていてもフィードバックによりFSHが上昇していると、この揺らぎがおきているとわかります。ただE2が上昇した後にFSHが反応して下がっていることもあり、この揺らぎが捉えにくい場合もあります。そこで産婦人科診療ガイドラインの婦人科外来編2023でも「エストラジオール(E2)や卵胞刺激ホルモン(FSH)の血清濃度は閉経の約2年後まで大きく変動するため閉経前後の時期にはこれらの測定は診断上必ずしも有用でない。したがって、月経周期の変動をもって卵巣機能の低下を推定し、ホルモン測定はあくまで参考にとどめるべきである。」と記載があります2)。
そこで血中E2濃度が保たれている場合でも、FSHが上昇していたり、月経周期が空いてきていたりして、潜在的に卵巣機能が低下していると推定される場合もあります。こういった場合にHRTを行うかどうか、まずは漢方などの治療をするかというのはケースバイケースで医師との相談となるでしょう。HRTガイドライン上は、適応と管理のアルゴリズムの中で「エストロゲン欠落症状あり」であればリスクとベネフィットを説明し、投与を避ける症例でなければHRTを考慮できるとしています3)。ただし血中E2濃度が保たれている状況でHRTを開始すると、HRTによって卵巣機能が刺激されることがあります。その場合血中E2濃度が過剰になる可能性もあり、不正出血や胸の張りなどの症状が強く出る可能性があり注意が必要です。
月経周期が保たれていて、血中E2濃度も保たれ、FSHの変動もない場合、通常はHRTを第1に勧めることはありません。私見にはなりますが、こういった場合にHRTをしても不正出血がコントロールできないことが多く、症状も改善しにくい印象があります。またHRTには乳癌リスクがあり、5年以上の施行でリスクが上昇するとされています。HRTの導入があまりに早すぎると、潜在的にE2が下がり始めた時にはこの目安の5年に近づいているという可能性もあります。そこでこのような場合、患者さんと相談しながら漢方やエクエルなどで経過をみます。そのうちに周期が乱れ始め、採血にも変化が生じ、丁度いいと思われる時期に導入できるという事が度々あります。
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1)安井敏之.“Ⅲレジメンの選択4.投与量はどうやって決めるか?”.今日からできるホルモン補充療法HRT実践マニュアル. 水沼英樹,高松潔編著.中外医学社,2013,P100-107
2)日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会.産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2023.
日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会,2023,P197
3)日本女性医学学会:ホルモン補充療法ガイドライン2025年度版. 金原出版株式会社,2025,P99-100
