皆さん初めまして、血液内科の長尾です。
火曜日午後に診察をしています。
本日は血液内科外来でもっとも頻繁に見かける疾患の一つである鉄欠乏性貧血についてお話ししたいと思います。
鉄欠乏性貧血とは?
貧血とは、様々な原因で体内を循環している赤血球の容量が減少した状態です。赤血球は体のあちこちに酸素を運ぶ働きをしています。この赤血球が十分に全身の臓器に運ばれないことで、だるさやめまい、息切れなどの症状が現れます。
一方症状は似ていますが、脳の血流が低血圧などで一時的に減少して立ちくらみ、ふらつき、冷や汗などが生じる、いわゆる「脳貧血」とは異なります。血が余り気味の人も脳貧血になることはありますし、よく脳貧血になる人が貧血とは限りません。
様々な貧血の中で、鉄欠乏性貧血(iron deficiency anemia: IDA)は、赤血球内の重要なタンパク質であるヘモグロビンを構成する鉄(Fe)が不足することで起きる貧血です。成人女性の約25%が発症していると言われ、頻度の高い貧血です。鉄が不足する原因としては、①出血(月経に伴う出血や消化管出血)、②偏食やビタミンC欠乏、胃腸切除などによる吸収の低下、③成長期や妊娠・授乳に伴う需要増加などが挙げられます。
女性ではやはり月経過多に伴うものが多く、子宮筋腫などの婦人科疾患が関係している場合もあります。若い男子が激しいスポーツが誘因となってこの貧血になることもあります。中年~高齢男性で、自覚のない消化管出血によるものは、少々注意が必要です。
鉄欠乏貧血状態の赤血球を大福に例えれば、お餅はあるのに中身の餡子が足りないため、小さくしぼんでしまっている状態です。これでは大福としては甘さが足りず、すなわち十分に酸素が運べません。
ありふれた病気なので少し軽く見られがちですが、甘く見てはいけません。放置すれば心臓に負担がかかって、心不全になったりすることもありますし、貧血自体はただの「兆し」で、見えにくいところに、心配な病気が隠れていることもあるからです。
鉄欠乏性貧血の症状
鉄欠乏状態が進行すると、だるさや頭痛、めまいなどの自覚症状や、体を動かしたときに動悸や息切れを感じるなど労作と関係したもの、眼瞼結膜(まぶたの裏側の粘膜))や顔色が青白くなるなどの他覚所見などが現れます。このほかに、異食症(氷をかじりたくなる、苦いものが美味しくなる)、さじ状爪(つめが薄く平坦になる、割れやすくなる)、舌炎・口角炎、飲み込みづらさなどが見られることがあります。
夏でもないのに、なぜかいつも氷を手放せない、なんて場合はちょっと要注意です。「そういえば以前より息が切れる、疲れやすい」などの自覚症状はありませんか?髪が抜ける、肌が荒れるなどの症状や、はっきりとした理由がないのに妙にイラついたりするのも、鉄欠乏性貧血と関係しているかもしれません。
鉄欠乏性貧血の検査と診断
血液内科の病気の診断は、もちろん血液検査が基本です。
貧血であるかどうかは、酸素の運搬役である「ヘモグロビン(Hb)値」を調べることで行われます。日本人では、Hb値が「男性13.0g/dl、女性12.0g/dl」を下回ると、「貧血」と診断されるのが一般的です。
貧血にも様々な原因と種類がありますが、「鉄の欠乏による」貧血であるかどうかは「血清フェリチン値」「血清鉄」「TIBC(総鉄結合能)」などで判断することができます。このうち体内に貯えられている鉄(貯蔵鉄)の指標となる「血清フェリチン値」が、もっとも鉄欠乏状態を反映し参考になりますが、これらの検査結果を組み合わせることで診断します。
これらの検査項目の意味するところについて、私がよくするのは以下のようなお話です。
鉄をお金に例えれば、「血清鉄」は財布の中の当面の生活費、「血清フェリチン」はもしもの時のために銀行に預けてあるお金、「TIBC」はさしずめ、請求書の束でしょうか。やりくりの上手さや浪費の予防は、ビタミン類の働きに似ています。
鉄欠乏性貧血の治療
上のたとえに乗っかって話を進めると、財布にも銀行にもお金がなければ、首が回らなくなって倒れてしまっても不思議はありませんので対策=治療が必要です。まずは当座の現金、そして少しずつ貯えを増やして、再び同じことが起きないようにしたいところです。同時に、なぜお金が足りなくなってしまったか、よく原因について考えるのも大事です。
特に出血(月経、消化管出血など)で血が失われている場合は、鉄をリサイクルして赤血球造りに再利用したくても、赤血球ごと鉄も体外に失われているため、治療するには外から鉄を補充しなければなりません。すなわち鉄欠乏性貧血の治療は、鉄剤の投与が基本です。
緊急の場合以外で赤血球輸血が必要になることは基本的にはありません。
長くなりましたので、続きは次回のブログへ。
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