「脂肪肝」とはその名の示す通り、肝臓に一定の基準を超えた脂肪が沈着した状態です。
多量のアルコール摂取が原因となることが多いですが、近年増えてきているのが
非アルコール性、つまり普段お酒を飲まない方の脂肪肝です。
非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease : NAFLD )と呼ばれ、
現代ではおよそ5人に1人が罹患していると言われています。
人間ドック受診者を対象としたひとつの研究で、本邦におけるNAFLDの有病率は
およそ30%、男性で40%、女性で18%という報告があります。
とても患者数が多い病気なのです。
男性では若年者でも指摘される傾向にあり、
女性は閉経に伴うホルモンバランスの関係から、60歳以上で増えていきます。
そして、大人だけの病気ではありません。
小児でも、潜在的に5%前後、肥満小児に限ると50%近くにのぼるとも推測されています。
年を重ねると代謝も落ちていき、健康診断で脂肪肝を指摘されることも増えていきます。
元気で何も困っていないし、まあぼちぼち痩せればいいのかな・・・
と、つい医療機関受診を先延ばしにしがちかもしれません。
しかし、そうやって長年放置すると、実は怖い病気なのです。
この病気に大きく寄与する素因として、日頃の生活習慣はもちろんですが、
肥満やインスリン抵抗性(インスリンの血糖降下作用が弱くなっている状態)があります。
そして遺伝的素因も関与していることが解ってきています。
過剰な脂肪は酸化ストレスを惹起し、肝細胞に直接ダメージを与えます。
これが肝臓に炎症が起こっている状態です。
多くの場合無症状のため、検査を受けない限りはなかなか判明しません。
この脂肪肝の状態を長期間放置すると、炎症を繰り返した肝臓の組織が次第に硬くなっていきます。
これを線維化と呼びます。
線維化が進行すると、やがて肝硬変に進展してしまいます。
肝硬変とは、肝臓がゴツゴツと硬くなりその働きが衰えた状態です。
肝臓にはタンパク合成能、解毒作用、凝固因子形成などたくさんの役割がありますが、
肝硬変になるとその全ての機能が低下していきます。
代償が効かなくなると黄疸やむくみ、出血傾向などの不具合が現れてきます。
以前はB型、C型の肝炎ウイルス感染や、アルコール過飲が肝硬変の原因の大部分を
占めておりました。ウイルス性肝炎の治療の進歩の陰で、このNAFLDを契機として
肝硬変まで進展する割合が増えてきています。
さらに、肝臓癌や他臓器の悪性腫瘍の発生にも影響を与えます。
心臓血管の病気や睡眠時無呼吸症候群、糖尿病、不眠・うつ病など、心身様々な病気の
リスク因子でもあるのです。
このように、脂肪関連肝疾患の長期的な放置は、
とてもおそろしいということをご理解頂けたかと思います。
今回は怖いお話に終始してしまいましたが、
もちろん誰しもがこのような経過を辿るわけではありません。
適切な検査を継続して受けることや、適確な治療により十分に予防や改善が可能な病気です。
次回のブログはNAFLDに対する「検査」についてお話ししたいと思います。
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消化器内科 杉原一明