更年期障害のホルモン補充療法(後編)

2020年9月4日
婦人科 佐野 靖子

ホルモン補充療法ガイドライン2025年度版発売に伴い2026年7月15日に更新しました。

 こんにちはミラザ新宿つるかめクリニックの佐野です。私は産婦人科専門医・女性医学会(旧更年期学会)の専門医であり、一般の婦人科診察に加え女性のヘルスケアや更年期障害を専門としています。前回のブログでは更年期障害の治療法であるホルモン補充療法(HRT)と開始前に必要なことについて解説しました。今回のブログではHRTの具体的な方法について説明をしていきたいと思います。

薬と服用法

 HRTはまず大きく2つに分かれます。子宮のある女性に行う場合(estrogen progestogen therapy: EPT)と子宮を摘出している女性に行う場合(estrogen therapy: ET)です。更年期の症状は2種類の女性ホルモンのうちエストロゲンの欠乏によって起こります。そこでエストロゲンの投与をすれば症状は改善します。しかしエストロゲンには子宮内膜を増殖させる作用があり、単独で使用すると子宮体癌のリスクが上昇します。そこで子宮のある女性には子宮体癌の予防のため黄体ホルモンの投与も必要になります(EPT)。子宮をすでに摘出している女性は子宮体癌の心配はありません。黄体ホルモンを併用する必要はなく、エストロゲン単独療法になります(ET)。

 HRTのエストロゲン製剤には飲み薬の他に貼り薬・ジェルなどの経皮剤があります。飲み薬は飲んだ後に消化管から吸収され、肝臓に運ばれてから血液中に取り込まれます。このため肝臓に負担がかかる場合があります。また、ホルモン剤が肝臓で分解された後の物質(代謝産物)が血栓症の原因になる可能性も指摘されています。一方、経皮剤は女性ホルモンの成分が皮膚から吸収され直接血液中に入ります。飲み薬に比べて吸収がよいこと、肝臓への負担がなく、血栓症のリスクが上昇しない事がメリットです。

 HRTの投与方法には周期的投与法と持続的投与法があります。これは黄体ホルモンをどのように組み合わせるかによって異なります。持続的投与法とは2種類の薬を連続して併用する方法です。周期的投与法は周期の前半はエストロゲン製剤を単独で投与し、後半に黄体ホルモンを併用する方法です。以前は周期的投与法の場合には黄体ホルモン製剤を終了した後に数日休薬をおく事も多かったのですが、天然型の黄体ホルモン製剤であるエフメノ®が発売され現在は休薬のない周期的投与法が主流になってきました。

 閉経前や閉経後半年~1年以内に治療を始める時は周期的投与法で開始することが多いです。閉経前や閉経後まもなくは自発的なホルモン分泌が残っている事もあり、持続的投与法でHRTを始めると予測できない出血が起きやすくなるためです。その後出血の状況を見て、持続的投与法に切り換えます。閉経後にある程度時間が経過してから治療を始める場合は最初から持続的投与法を選択します。

副作用

 HRTの副作用には不正性器出血、乳房痛、片頭痛があります。もし副作用が出現する場合は、投与方法や投与量を変更する相談を行います。ホルモン剤と聞くと乳癌のリスクを心配される方もおられるでしょう。確かにHRTは乳癌のリスクを少し上昇させますが、そのリスク上昇はアルコール摂取や肥満・喫煙といった生活習慣によるリスク上昇と同じくらいかそれ以下で、ホルモン補充療法ガイドライン2025年度版では乳癌リスクに及ぼすHRTの影響は小さいとされています。子宮体癌に関しては適切に黄体ホルモンを併用し子宮内膜を保護することで予防することができます。ただ周期的投与法では持続的投与法に比べてリスクが高いため、適切な時期に持続投与法に移行することをすすめています。

開始時期・治療期間と必要な検査

 HRTを始める時期はいつがいいでしょうか。ベストなタイミングは閉経前または閉経後早期です。エストロゲンにはコレステロールを下げたり、血管をしなやかに保ったりする働きがあります。閉経し、この働きが失われると動脈硬化が進みやすくなります。そしてある程度動脈硬化が進んだ状態でHRTを開始すると、本来のエストロゲンの効果とは逆に動脈硬化が促進され、心筋梗塞や脳卒中のリスクが上昇すると言われています。よって閉経10年以降または60歳以降の新規のホルモン補充療法は慎重投与となっています。一方閉経前または閉経後早期にHRTを開始し、エストロゲンが途切れる期間を短くすることで、動脈硬化を予防し、血管を柔軟にし、皮膚の萎縮・骨粗鬆症を防ぐという副効用も享受することができます。

 治療を開始した後の治療期間は、症状の推移を見ながら相談していきます。乳癌、子宮体癌のリスクが期間に比例して上昇することを考えると5年が1つの目安にはなりますが、ガイドライン上はHRTの継続を制限する一律の年齢や投与期間はないとされています。HRT中は採血・経腟超音波・子宮頚癌・体癌検診、乳癌検診は年1回を目処に定期的に行っていきます。

最後に

 前回より2回にわたりHRTについて説明しました。HRTは更年期障害に対する効果とともに、適切な時期に開始することでアンチエイジングや動脈硬化の予防といった副効用も期待できます。しかし正確な知識がなかなか伝わることが少なく、リスクが高い治療法といったイメージが先行している印象があります。更年期障害は我慢しなくていい時代です。更年期障害に悩んでおられる方は婦人科での相談をご検討ください。


婦人科のページはコチラより


文献
日本女性医学学会:ホルモン補充療法ガイドライン2025年度版. 金原出版株式会社,2025

公開日:2020年9月4日
(2026年7月15日更新)

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