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更年期障害のホルモン補充療法(後編)

  

   こんにちはミラザ新宿つるかめクリニックの佐野です。前回のブログでは更年期障害の治療法であるホルモン補充療法(HRT)とHRT開始前に必要なことについて解説をしました。今回のブログではHRTの具体的な方法について説明をしていきたいと思います。



 

薬と服用法

   HRTにはまず大きく分けて2つあります。子宮のある女性に行う場合と子宮を摘出している女性に行う場合です。更年期の症状は2種類の女性ホルモンのうちエストロゲンの欠乏によって起こります。そこでエストロゲンの投与をすれば症状は改善します。しかしエストロゲンには子宮内膜を増殖させる作用があり、単独で使用すると子宮体癌のリスクが上昇します。そこで子宮のある女性には子宮体癌の予防のため黄体ホルモンの投与も必要になります(EPT)。子宮をすでに摘出している女性は子宮体癌の心配はありません。黄体ホルモンを併用する必要はなく、エストロゲン単独療法になります(ET)。

   HRTのホルモン剤には飲み薬以外にも貼り薬、ゲルなどのいわゆる経皮剤があります。どちらでも効果は変わりません。飲み薬は飲んだ後に消化管から吸収され、肝臓に運ばれてから血液中に取り込まれます。このため肝臓に負担がかかる場合もあります。また、ホルモン剤が肝臓で分解された後の物質(代謝産物)が血栓症を引き起こす可能性も指摘されています。一方、経皮剤は皮膚から吸収され直接血液中に入ります。このため肝臓への負担がなく、血栓症のリスクをあげないことが利点とされています。

昔から使われてきた飲み薬である結合型エストロゲン製剤には血中の悪玉コレステロールを下げ、善玉コレステロールを上げるいい作用があります。しかし同時に中性脂肪を上昇させる可能性もあり、いい作用が相殺されてしまう可能性がありました。現在治療に使用できるようになった17β-エストラジオールの経皮剤は中性脂肪を低下させる効果があります。これによりコレステロールが大型化され動脈硬化を起こしにくくする作用があります。

   HRTの投与方法には周期投与法と持続的投与法があります。周期投与法とは21~24日間程度薬を使用した後に何日か休薬し、その期間に消退出血を来させる方法です。持続的投与法とは薬を連続的に飲み続ける方法です。閉経前や閉経後1年以内に治療を始める時は周期投与法で開始します。自分からのホルモン分泌がある場合、持続的投与法でHRTを始めると不正出血が起きやすいためです。その後出血の状況を見て、持続投与法に切り換えることもできます。閉経後に時間が経過してから治療を始める場合は最初から持続投与法を選択します。

 

 

 

 

副作用

   HRTの副作用は不正性器出血、乳房痛、片頭痛があります。もし副作用がでた場合は、投与方法や投与量で調整ができます。HRTの影響で上昇する可能性がある癌は乳癌・子宮体癌・卵巣癌があります。

   まずは乳癌についてです。HRTをしていると乳癌のリスクは上昇します。HRTをしていない場合10,000人・年で30名の乳癌の発症を認めるのに対し、HRT(エストロゲン・黄体ホルモン併用療法)をすると38名の発症に上昇するといわれています。これは1,000人がホルモン補充療法を1年間行うと乳癌の発生が3人から3.8人に増えるということを意味します。これはアルコール摂取・肥満・喫煙といった生活習慣関連因子によるリスク上昇と同等かそれ以下です。他研究の報告も合わせ、HRTガイドライン上ではエストロゲン・黄体ホルモン併用療法(EPT)の場合5年未満では乳癌は有意に上昇しないとしています。乳癌の発症には黄体ホルモンの影響もあるため、エストロゲン単独投与(ET)の場合リスクはさらに低く、7年未満ではリスクは上昇しないとされています。

 

  子宮体癌に関しては適切に黄体ホルモンの併用し子宮内膜を保護することで周期投与法の場合、5年までの使用であればリスクは上昇しないとされています。また持続投与法の場合は子宮体癌を上昇させないと結論づけられています。適切な時期に持続投与法に移行することによりリスクを減少させることが可能です。

 

  卵巣癌もホルモン補充療法により上昇の可能性があるとされていますが、ホルモン補充療法を1,000人の女性が行うと卵巣癌の患者さんが1人増える程度と推測されています。

 

 他に経口ホルモン剤は血液を固まりやすくし、血栓症のリスクを上昇させると言われていますが、リスクの増加は50歳代では1,000人に1.1人、60歳代では1,000人に1.6人程度です。また経皮剤ではリスクの上昇はないとされています。

 

開始時期・治療期間と必要な検査

   HRTを始める時期はいつがいいでしょうか。答えは閉経前または閉経後早期です。閉経してエストロゲンが欠乏すると動脈硬化になりやすくなります。エストロゲンには本来動脈硬化を予防する作用があります。しかし逆に動脈硬化が進んだ状態で投与すると、動脈硬化が促進され、逆に心筋梗塞や脳卒中のリスクが上昇すると言われています。よって閉経10年以降または60歳以降の新規のホルモン補充療法は慎重投与となっています。一方閉経前または閉経後早期に開始し、エストロゲンが途切れる期間を短くすることで、動脈硬化を予防し、血管を柔軟にし、皮膚の萎縮・骨粗鬆症を防ぐという副効用も享受することができます。

   治療を開始した後の治療期間は、症状の推移を見ながら相談していきます。乳癌、子宮体癌、卵巣癌のリスクが期間に比例して上昇することを考えると、5年が1つの目安になると考えられます。もちろん症状がおさまるようであれば1~3年と短くても大丈夫です。しかし動脈硬化や心筋梗塞・狭心症の予防は5年以上で効果がでると最近わかってきたので、治療期間が長い方がメリットも多いという意見も最近でてきました。症状がおさまることのみを求めるか、副効用などアンチエイジングの要素も求めるかなど、治療で患者さんが何を重視するかにもよると思います。HRT中は採血・経腟超音波・子宮頚癌/体癌検診、乳癌検診は年1回を目処に定期的に行っていきます。

 

最後に


   このブログでは2回にわたりHRTについて説明しました。HRTは更年期障害に対する効果とともに、適切な時期に開始すればアンチエイジングや動脈硬化の予防といった副効用も期待できます。しかし正確な知識がなかなか伝わることが少なく、リスクが高い治療法といったイメージのみが先行している印象があります。更年期障害は我慢しなくていい時代です。更年期障害に悩んでおられる方、HRTに興味がある方は是非一度相談に来て頂ければと思います。

 
婦人科のページはこちらから

HRTについてのくわしい各論のブログもアップしました。
更年期障害のホルモン補充療法 各論 その①飲む?貼る?塗る?」

も一緒にご覧ください。

 

 

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