こんにちは、ミラザ新宿つるかめクリニック消化器内科の津川直也です。
健診で指摘されたことがある方も多いと思われる、肝機能障害に関して2回に分けてまとめていきます。
〇肝臓とは
肝臓は右下胸部の肋骨裏、横隔膜の下にあり、大きさは体格にもよりますが体重の1/50ほどの1200g~1500g程度であり、人体の中の最大臓器です。何か病気があったとしても症状があらわれにくく、沈黙の臓器とも言われています。また「肝心(かんじん)」と言われるように、私たちヒトの体にとって無くてはならない働きをしています。
その働きは大きく分けて3つあります。
①代謝
食事を摂取して消化器で消化・吸収された栄養素は血流によって肝臓に運ばれます。
運ばれた後そのまま肝臓に貯蓄されたり、体内で使用する蛋白質などの合成に使用されたりします。そのため、過剰な栄養摂取は多量に肝臓に栄養を貯め込むこととなり脂肪肝となっていきます。
②解毒
体内に侵入してきた異物、体内で合成された代謝産物を分解する機能があります。
当然薬とアルコールの分解にも関わります。
その過程で薬剤性肝炎、アルコール性肝炎などが生じることがあります。
③胆汁の生成
胆汁とは黄色の液体であり、便が黄色くなる要因でもあります。
肝臓で作られた胆汁は胆管を通って胆嚢に一度蓄えられ、食事などの際に胆嚢が収縮し総胆管を通って十二指腸へと排出されます。この胆汁の循環が結石、悪性腫瘍、肝炎などによりうまく回らないと、体が黄色くなる黄疸の原因になります。
胆汁の中に入っている胆汁酸は脂肪を乳化することにより、脂肪・脂溶性ビタミンの吸収に重要な役割を担っています。
〇肝機能障害とは
肝機能障害とは特に症状がなくても、何らかの原因により肝機能が障害を受けた結果、採血で肝臓・胆道系酵素と言われるAST(GOT)、ALT(GPT)、ALP、LDH、γ-GTPなどが高値を示すことを言います。
これらの酵素は肝細胞、胆道細胞内に含まれていますが、肝臓・胆道が炎症を起こすことによって血液中に流出し、その結果採血での数値が高くなります。
以下に血液検査の詳しい説明を行っていきます。
◎血液検査項目
・AST(GOT)、ALT(GPT)
どちらも肝細胞内に存在している酵素ですが、肝内の含有量はASTが多くなっています。
ASTは心筋、骨格筋、赤血球内などにも多く存在しているため、肝臓の障害以外にも心筋梗塞、筋肉の炎症、赤血球の破壊(溶血)などでも上昇します。
ALTはAST同様に肝細胞内に存在していますが、ASTとは異なり肝細胞内にメインに存在しています。そのためASTだけ上昇し、ALTの上昇が顕著ではない際は肝機能障害以外を強く疑っていきます。また、AST・ALTは血中に放出されてから分解されるまでの時間(半減期)が異なり、ASTは短く、ALTは長いという特徴があります。
肝臓に急性の炎症が起きた際は肝内の含有量が多いASTが最初に多く血中に流出するためAST>ALTとなります。そして炎症が治まり流出する肝酵素が減ってくると、ASTはALTよりも早く分解されるためALT>ASTとなります。逆に慢性的な炎症の際には、半減期の違いからALTの方が高値となっていることが多いです。
また、アルコール性肝障害ではエタノールによりALTの合成が抑えられることから、ASTの方が優位に上昇することが多いです。
一概には言えませんが、これらの特徴により肝機能障害の原因を以下の様にある程度推測することは可能です。
AST>ALT:急性肝炎(ウイルス性、薬剤性など)、アルコールによる障害
ALT>AST:急性肝炎の回復期、慢性肝炎(脂肪肝など)
・ALP
肝臓、腎臓、骨、小腸などで形成される酵素です。肝臓から胆汁を介して排出されるため、肝臓に炎症がある際、胆汁の流れが滞っている際などに血中に吸収され高値となります。
また胆汁の排出が滞っている際は強く産生が誘導されることからも高値となっていきます。
ALPにはアイソザイムと呼ばれる、酵素活性は同様でも化学的な構造が異なるものが6種類あります。どの種類のアイソザイムがメインで上昇しているか調べることで、高値の原因の鑑別の助けになることがあります。
・LDH
糖を分解する時に働く酵素であり、肝臓に主に存在しています。ASTと同様に筋肉、赤血球内にも存在しているため、心筋梗塞、溶血などでも上昇していきます。ALPと同じ様にアイソザイムが6種類あり、どの種類のアイソザイムがメインで上昇しているか調べることで、高値の原因の鑑別の助けになることがあります。
・γ-GTP
肝臓や腎臓などでつくられる酵素で、たんぱく質を合成・分解する働きをします。肝臓では通常肝細胞や胆管細胞に存在し、胆汁中にも多く存在しています。
炎症などで肝細胞が破壊された際に血中に流出しするのは他の酵素と同様であり、他にもアルコールや胆汁のうっ滞によって合成が促進されるので高値を示してきます。
特にアルコールによる影響は大きいと言えます。アルコール性肝障害で上昇している際は数週間の禁酒により正常化することもあります。
〇最後に
上記記載の通り肝機能障害は何らかの原因疾患がある結果生じてくるものとなります。
そのため、健診などで指摘された際にはなぜ肝機能障害が起きているかの原因検索が必要となります。肝臓は沈黙の臓器とも言われており、症状がでている時は炎症が強い時や、すでに障害が進んでしまっている段階の可能性もあります。
定期的に健診をきちんと受け異常がないかを確認していくと共に、もし異常値の指摘があった際には放置せずに医療機関を受診し、精査を行うことをお勧めします。
次回は精査の内容をまとめていきたいと思います。
消化器内科のページはこちらから