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脂質異常症、治療していますか?  その②

HRTが脂質代謝に与える影響について

 こんにちは、ミラザ新宿つるかめクリニック婦人科の佐野です。私は産婦人科専門医・女性医学会専門医・抗加齢医学会専門医であり女性のヘルスケアやピル・ホルモン治療を専門としています。前回までは女性ホルモンのエストロゲンには血液中の悪玉コレステロールを下げたり血管を柔軟に保ったりする作用があること、更年期以降にはその効果が失われるため動脈硬化が進みやすくなることを説明しました。エストロゲンによるいい効果がなくなる分、生活習慣を整える必要があるということでしたね。本日はその続きで、ホルモン補充療法(HRT)は脂質代謝にどのような影響を与えるかについて説明をします。

 

 脂質代謝に対するHRTの影響は、使用する薬剤によって少し異なります。まず悪玉であるLDLコレステロールを減少させる効果があると報告されているのは、飲み薬のエストロゲン製剤です。結合型エストロゲン(商品名プレマリン®)とメドロキシプロゲステロン酢酸エステルの組み合わせはLDLコレステロールを減少させ、善玉であるHDLコレステロールを上昇させることが報告されています。また飲み薬の17-βエストラジオール(E2)製剤も通常量でLDLコレステロールを優位に低下させることが報告されています。

 ただ結合型エストロゲンの場合、通常量(0.625mg/day)で用いると、肝臓で分解される際に中性脂肪の産生を増加させることが報告されています。血管内に中性脂肪が増えるとLDLコレステロールは小粒子化されます。小粒子化されたLDLは肝臓に取り込まれにくく、そのうえ血管壁内で酸化変性されやすく、動脈硬化を起こしやすくします。そこで通常量の結合型エストロゲンを用いる場合は中性脂肪の増加に注意が必要です。一方飲み薬のE2製剤には中性脂肪を増加させる作用はありません。そこでLDLコレステロールの低下を期待し、かつ中性脂肪を増加させたくない場合は飲み薬のE2製剤が適していると言えるでしょう。

 

 尚、パッチ・ジェルなどの経皮のE2製剤も中性脂肪を上昇させません。経皮製剤はそもそも血液中に吸収される際に肝臓を通らないためです。経皮E2製剤はLDLコレステロールの低下作用は飲み薬に比べるとあきらかではありませんが、動脈硬化を起こしにくい大型のLDLコレステロールを産生したり、抗酸化作用を有したりし、脂質代謝にいい影響を与えることがわかっています。

 

 上記のように一部のエストロゲン製剤ではLDLコレステロールを低下させたり、脂質代謝にいい影響を与えたりすることがわかっています。では一般的に脂質異常症の治療のみを目的にHRTをすることがあるかというと、すこし事情は異なってきます。


 過去に行われた大規模な臨床研究では、通常量の結合型エストロゲンを用いたHRTを受けた女性で冠動脈疾患(狭心症・心筋梗塞)のリスクが上昇していることが報告されました。しかし後の詳細な検討では、このリスクは患者背景によって異なる事が判明しました。

 

 閉経後年齢を経ている女性が上記のHRTを受けると冠動脈疾患のリスクが上昇し、一方閉経後10年未満の若年層の女性では逆にリスクが低下していることがわかりました。その後の他の研究結果も経た上で、現在では「動脈硬化が進んでいない女性の場合、エストロゲンは脂質代謝を改善させいい影響をもたらす。しかし動脈硬化が進んでいる女性の場合はかえって動脈硬化を助長する可能性がある。」と考えられています。ホルモン補充療法ガイドラインで60歳以上や閉経後10年以上経過した女性のHRTが慎重投与とされているのもこのためです。

 

 ただそれぞれの女性に動脈硬化があるかないかは年齢や閉経後の期間で一律に決まるわけではなく、家族性高コレステロール血症の背景があるかどうか、高脂血症の状況がどの程度継続しているかなど、その他の要因による影響もあります。そこで50歳前後でも動脈硬化が進んでいると考えられる場合はHRTが悪影響を及ぼす可能性もあります。

 

 そこで高脂血症と診断されており、かつ10年以内に冠動脈疾患を発症する確率(吹田スコアという指標を用います)が高い場合は、まずは内科での相談と動脈硬化の評価をすすめる場合があります。

 



 10年以内に冠動脈疾患を発症する確率がさほど高くない場合、まずは生活習慣を改善させることが治療の第一となります。更年期症状があれば、生活習慣の改善とともにHRTでの治療を開始し、脂質代謝の改善効果を期待することもできます。本邦ではエストロゲン製剤は更年期障害や腟萎縮症状、閉経後骨粗鬆症等に対して保険適応になっています。そこでこれらの症状がなく、高脂血症の改善のみが目的であればHRTは保険の適応外となります。また生活習慣の改善やHRTのみでは改善が得られない場合は他の高脂血症の治療薬が必要になることもあります。

 

参考文献

日本女性医学会:女性の動脈硬化性疾患発症予防のための管理指針 2018年度版

日本産科婦人科学会・日本女性医学学会:ホルモン補充療法ガイドライン 2017年度版

 

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