こんにちは、ミラザ新宿つるかめクリニック婦人科の佐野です。私は産婦人科専門医、女性医学会専門医・抗加齢医学会専門医であり女性のヘルスケアやピル・ホルモン治療を専門としています。今日はホルモン補充療法(HRT)の施行前と施行中に必要な検査についてお話しします。
HRTは現在パッチやジェルでも可能になっており、飲み薬に比べると治療へのハードルは下がっているように感じられます。そして時々パッチ剤やジェルであれば特に特別な診察や検査は必要ないのでは?と思っている方もいるようです。ただしどんな場合でもHRTの前には診察と検査を組み合わせた適切なアセスメント、また施行中には定期的な検診が必要です。「ホルモン補充ガイドライン」にはHRT施行前の必須検査として以下が挙げられています。そしてこれらの検査が必要であるのにはそれぞれに理由があります。
例えば高血圧がある場合、HRTの前に血圧の治療が必要になることがあります。また肥満は血栓症のリスク因子となるためHRTの適応は慎重に判断します。そこでまずは血圧・身長・体重の確認が必要です。そして血液検査での一般的な項目のチェックもかかせません。更年期の治療の対象になる40~50代の女性ではすでに脂質異常症や糖尿病などの持病がある方もおられます。その場合HRTができないこともあれば、できたとしても使用できるお薬に制限があることがあります。そこで毎年健康診断等で採血を受けているか、結果は異常がないかを確認します。健康診断の結果がお手元にある場合は婦人科受診時には是非持参して下さい。受けていない場合は別途検査が必要です。
婦人科の内診と経腟エコーは子宮筋腫や子宮腺筋症、子宮内膜症、卵巣嚢腫などHRTで病変が増大する可能性のある病変がないかの確認のため行います。また子宮体癌や乳癌がある場合HRTは施行できず、子宮頚癌の中にもホルモン剤に影響を受ける可能性があるものがあります。そこで子宮体癌、子宮頚癌と乳癌の検診も必要です。
上記のすべての結果を確認し婦人科医はHRTが安全に施行できるかどうか、また投与経路や投与法は何が適切であるかをアセスメントしていきます。もし「検査で軽度な異常があるけれどHRTはできる」と判断した場合、HRT中には定期的に経過観察のための検査を行います。またHRT開始時に異常がなかった場合でも継続中は上記の検査は年に1度は必ず施行します。HRTが血圧や肝機能、脂質代謝に影響を及ぼしていないか、HRTができる全身状態を保てているかの確認のためです。またHRT施行中には子宮体癌や乳癌の発生には注意が必要です。そこで年に1度は子宮・乳腺の検診を受けて頂きます。
「HRT中に定期的な検査を受けないのは信号を確かめずに横断歩道を渡るようなもの」とある先生が仰っていて、思わず膝をうったことがあります。HRTは辛い更年期症状を和らげ、充実したポスト更年期を迎えるためのものです。ただ検査をしっかり受けないまま続行するHRTにはリスクも伴います。充実したポスト更年期を妨げるようなリスクは極力遠ざけたい。そのために検査をしっかり受けて頂くことは、患者さんと医師の信頼関係のためにも大切と考えています。
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