低用量のHRTについて

2021年11月12日
婦人科 佐野 靖子

ホルモン補充療法ガイドライン2025年度版発売に伴い2026年8月5日に更新しました。

 こんにちは、ミラザ新宿つるかめクリニック婦人科の佐野です。私は産婦人科専門医、女性医学会専門医・抗加齢医学会専門医であり女性のヘルスケアやピル・ホルモン治療を専門としています。今日は更年期障害のホルモン補充療法(HRT)の話題で「低用量のHRT」についてお話しします。

 性成熟期の女性では女性ホルモンである血中のエストラジオール(E2)濃度は月経周期により大きく変動します。月経中に一番低く、その後卵胞期にかけて徐々に上昇し、排卵付近でもっとも上昇します。このE2濃度は閉経後には20pg/ml以下まで低下します。HRTは女性ホルモンを補充し更年期症状を緩和させる治療で、通常のHRTでは血中E2濃度は40-80pg/ml程度まで上昇します。これは性成熟期の女性の場合、卵胞期相当の値です。以前はHRTの効果を得るにはある程度の血中エストラジオール濃度の上昇が必要であると考えられていました。

 しかし時代とともに通常量のHRTより少ないホルモンの補充量でものぼせ・ほてりや骨粗鬆症の予防に効果を発揮することがわかってきました。体の中のE2濃度は骨への刺激は20pg/mL、のぼせ・ほてりなどの血管運動症状には40pg/mLで作用するという報告があります1)。そこで通常のホルモン補充量よりも低い量でHRTを行う「低用量のHRT」が提唱されました。現在では低用量のHRTは通常量の半分程度のホルモン量で行うことが一般的になっています。

 では低用量のHRTのメリットとは何でしょうか。まず不正出血が少ないことです。通常量でのHRT、特に持続投与ではコントロールができない不正出血が続くことがあります。一方低用量のHRTでは持続投与でも出血が起きにくいことが知られています。また子宮筋腫や子宮腺筋症、子宮内膜症などの病気がある場合、HRTをすると女性ホルモンに反応して病変が大きくなることがあります。こういった場合も用量を減らすと影響を少なくできる可能性があります。

 またHRTを続ける上での大きな懸念点に乳癌のリスクの上昇があります。乳癌リスクはHRTの施行期間と関連することが知られており、子宮のある女性に行うestrogen progestogen therapy: EPTの場合、5年未満の施行では安全に行えると考えられています。この観点からは症状が落ち着けばHRTを5年までの間に中止することが理想的ですが、実際には中止するとのぼせ・ほてりが再燃してしまいHRTを再開せざるを得ない事もあります。低用量HRTでは最小有効量までエストロゲンを減量することで、HRTのリスクを抑え、メリットを享受できる可能性があります。尚黄体ホルモンの減量については2026年のガイドライン上、エストロゲンを減量した場合の黄体ホルモンの必要量については一定の見解はないとの文言が追加されました2)

 ただし低用量のHRTにはいくつか弱点もあります。まずは通常量に比べると効き目が現れるのが少し遅い印象があります。私見ですが通常量のHRTの場合、開始して1週間以内でのぼせ・ほてりは改善することが多いです。一方低用量の場合は1ヶ月程度経過してようやく効果を感じ始めるという方が多いです。中には低用量に移行してもなかなか効果を感じにくく通常量に戻す方もおられます。効果や切れ味の面では通常量の方が高いと言えるかもしれません。

 現在日本で使用できる薬剤で低用量HRTに使用可能であるのは飲み薬のジュリナ®・プレマリン®かジェル製剤のル・エストロジェル®の3剤です。メリット・デメリットを踏まえ、より合ったHRTの選択をしていきたいですね。

婦人科のページはコチラから

文献
日本女性医学学会:ホルモン補充療法ガイドライン2025年度版. 金原出版株式会社,2025
1)安井敏之.“Ⅲレジメンの選択4.投与量はどうやって決めるか?”.今日からできるホルモン補充療法HRT実践マニュアル. 水沼英樹,高松潔編著.中外医学社,2015,P100-107
2)日本女性医学学会:ホルモン補充療法ガイドライン2025年度版. 金原出版株式会社,2025

公開日:2021年11月12日
(2026年8月5日更新)

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