こどもは走り回り、手足やおでこによく擦り傷をつくる。
増えていく傷跡は、健やかに育っている証でもある。
体が小さい分負荷も大きくないため、傷も浅く、すぐに治る事が多い。
発育段階のため、創傷治癒能力が高いことも影響している。
大人はどうであろう。
まず、走り回ることがなくなる。
そしてバランス感覚も発達しているため、転ぶこと自体が少なくなる。
しかし、たまに転んでケガをすると、傷の治りが遅いな・・と感じるものだ。
秋の日の夕刻、公園をジョギングしていたときのこと。
わずかな段差につまずき、激しく前のめりに顔から転んだ。
自分が思っていたよりも、足が上がっていなかったようだ。
その場に座り込み、膝を見てみると大きな擦り傷ができており、血液と砂利で汚れていた。
顔を上げるとすぐ前を歩いていたスーツ姿の男性はもう見えなくなっていた。
そして真横を、自転車の車輪の音が軽やかに通過。
大人が転ぶということは、痛い、が、せつない・・・。
まずは水道水で傷口をよく洗い、砂利を落とす。冷たい水が傷に凍みるが我慢。
思いのほか深そうな傷には、創傷治癒促進の被覆剤を貼付した。滲出液がよく出てくるため
数日おきに被覆剤を張り直した。
治るまでには2週間を超えて期間を要した。やっぱり、遅い。
負った傷は4段階の過程を経て治癒に向かう。
最初は止血期。
出血を止めることがまず必要なため、血小板などの血液凝固に関連した成分が止血に働く。
次に炎症期。
創内の細菌等、創傷治癒遅延因子を排除するため白血球、マクロファージが自浄にあたる。
続いて増殖期。
線維芽細胞、血管内皮細胞が分裂しコラーゲンを形成する。ピンク色のきれいな肉芽で覆われた状態である。
最終的に安定期(成熟期)となる。コラーゲンが丈夫になり、皮膚のバリア機能も取り戻した状態である。
その過程の中で、創傷治癒を遷延させないようにする要点がいくつかある。
まず大切なことは、傷を負ったらすぐに十分な水で洗浄すること。よほど汚染された水ではない限り、一般の水道水で充分である。
そして傷は、少なくともきれいな肉芽が形成されるまでは乾燥させないこと。
乾燥は創傷治癒を妨げる大きな因子となってしまうからである。
昔は乾燥させてかさぶたができるのを待っていたものだが、
しっかりしたかさぶたに満足し、剥がしては、あ、まだ早かったかな・・と
後悔したものだ。
ジュクジュクした滲出液は良好な肉芽形成の為の成分が含まれている。
適切な被覆剤で保護しながらじっくり待つのである。
もし、不良肉芽が形成されてしまった場合や、感染し膿が出てきた場合には、速やかにこれらを除去しなければならない。
とりあえず、判断に迷った場合には、医療機関受診が適切である。
擦り傷ひとつにしても、考えてみると奥が深い。
*擦り傷の対応の要点
① なるべく早く、充分な水で洗う
② 創部は乾燥させない
③ 滲出液のよく出る傷の場合には、医療機関受診を
ミラザ新宿つるかめクリニック 杉原一明